Corneal disease 角膜疾患

角膜感染症

細菌性角膜潰瘍

細菌により角膜の内部までえぐれた重い病気

コンタクトレンズや外傷、ドライアイなどが原因で生じた角膜の小さな傷(表層角膜炎や角膜びらん)に細菌が感染して、角膜の中で増殖して膿がたまり(角膜膿瘍)、角膜組織がえぐれる(角膜潰瘍)ことがあります。角膜潰瘍とは、病変が角膜表面の角膜上皮だけでなく、その内部の角膜実質にまでおよんだ重篤な状態です。

進行が早く重症化する

角膜潰瘍を起こす代表的な細菌に緑膿菌があります。緑膿菌は私たちのまわりに広く分布している細菌で、目に入って角膜や結膜に感染することがあります。緑膿菌による角膜感染では、輪状膿瘍と輪状潰瘍が生じます。きわめて進行が早く、角膜に穴が開いたり(角膜穿孔)、眼内に炎症が波及したりすること(眼内炎)もある重症の病気です。

緑膿菌による角膜潰瘍
緑膿菌による角膜潰瘍

大量の白色眼脂、輪状の膿瘍と潰瘍
眼内に炎症細胞が沈殿(前房蓄膿)

色々な細菌が角膜潰瘍を起こす

その他、黄色ブドウ球菌や種々の細菌によっても、重症の角膜潰瘍が引き起こされることがあります。
また、近年、成人男性を中心に淋菌による結膜炎と角膜潰瘍も増えてきています。淋菌は白色の大量の眼脂(めやに)が出て、結膜炎を起こしますが、ときに角膜潰瘍を起こすこともあります。通常の抗菌点眼薬に耐性のことも多いため、適切な診断と治療が必要になります。

淋菌による角膜潰瘍

淋菌による角膜潰瘍

白色眼脂を伴う強い角膜混濁、視力は光覚のみ
12時方向の角膜は非常に薄く、後に角膜は穿孔    

同症例の全層角膜移植術後(当院非常勤医師執刀)

同症例の全層角膜移植術後
(当院非常勤医師執刀)

手術後、矯正視力0.5まで回復

患者さんの
年齢
33歳 男性
症状 みぎ眼瞼発赤腫脹、眼痛、眼脂
治療内容 上記症状により、近医眼科受診、クラビット点眼およびテラマイシン眼軟膏で治療するも症状増悪したため、8日後当院紹介受診
当院初診時、結膜・強膜充血、角膜混濁著明で視力は光覚弁、大量の白色眼脂を生じていた。12時方向の角膜は著しく菲薄化し一部穿孔していた。眼脂塗抹鏡検および培養検査にて淋菌を同定したため淋菌性角膜潰瘍と診断。抗生剤の感受性検索により、ペニシリンやレボフロキサシンなど多剤耐性菌であった。フルマリンに感受性であったため、フルマリン点滴と点眼にて治療。抗生剤が有効で、眼脂消失、症状軽快、角膜穿孔部は結膜で被覆されたため退院。しかし、その後、外来にて経過観察中に角膜菲薄部が再度穿孔したため全層角膜移植術を施行。その後経過良好で、矯正視力は(0.5)まで回復。
費用 手術費用は526000円、その他、入院治療費
治療期間・
回数
治療期間6か月、入院は2回で併せて4週間、外来通院は6か月ほど
デメリット・
リスク
治療のデメリット・リスクは、確率は低いが、角膜再穿孔、角膜感染症の再発、角膜拒絶反応が起こる可能性があり。しかし、本症例は角膜穿孔のため、角膜移植術を施行しないと失明する病態であったため、手術治療は必須であった。

角膜ヘルペス

上皮型角膜ヘルペス

単純ヘルペスウイルス1型が角膜(黒目)に感染することにより起こる病気です。

幼少期に感染していて体調不良時に発症
私たちはほとんどの人が、幼少時に口腔内や上気道などから単純ヘルペスウイルスに感染をしています。多くの場合は何も目の症状が出ずに、ウイルスは三叉神経の神経節に潜んでいます。しかし、私達が風邪やストレス、過労、発熱など何らかの体調不良になった時に、ウイルスが再活性化して、角膜に出てきて病気を起こします。これを角膜ヘルペス(上皮型角膜ヘルペス)といいます。

目やには出ない
目の違和感や痛み、充血、かすみや視力低下、流涙(なみだ目)、羞明(光がまぶしい)などが生じますが、一般的に目やにはでません。
角膜上皮でウイルスが増殖して、角膜に枝分かれした樹枝状の角膜潰瘍や、それらが癒合した地図状の角膜潰瘍を生じます。また、角膜の知覚が低下します。

抗菌薬は効かない
細菌ではありませんので、通常の抗菌点眼薬は効果がありません。抗ウイルス薬(アシクロビル)の眼軟膏、もしくは内服で治療をします。一度発症すると再発を繰り返すことがあります。

上皮型角膜ヘルペス
上皮型角膜ヘルペス

樹枝状の角膜潰瘍

実質型角膜ヘルペス(円板状角膜炎)

角膜の表面の角膜上皮よりも内側の角膜実質にヘルペスウイルスの炎症が起こる病気です。

炎症疾患なので治療にはステロイド点眼薬も
角膜実質で増殖したウイルスの成分に対する身体の免疫反応(IV型アレルギー反応)により起こる炎症です。こちらも私達の体調不良時に、潜伏していた単純ヘルペスウイルスが再活性化して起きる病気です。上皮型から移行することもあります。
角膜中央部に円形の角膜浮腫が出現し、角膜が白く濁り(角膜混濁)、円板状角膜炎を生じます。
濁った角膜の後面には炎症細胞が付着し(角膜後面沈着物)、目の中の炎症(前部ぶどう膜炎)も起こします。
このように、実質型角膜ヘルペスは炎症性疾患ですので、ステロイド点眼薬も用いて、アシクロビル眼軟膏と併用して治療します。

実質型角膜ヘルペス
実質型角膜ヘルペス

著明な充血と輪状の角膜混濁
眼内炎症(前部ぶどう膜炎)も発症

アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバという原虫(単細胞微生物)に感染することにより発症する角膜感染症です。アカントアメーバは淡水(池や川)、水道水、土壌に広く生息しています。

コンタクトレンズ装用者は要注意
アカントアメーバ角膜炎はコンタクトレンズの不適切な使用方法によって発症することがほとんどです。専用の洗浄液を用いずに水道水でコンタクトレンズを洗うとアカントアメーバに汚染することがあります。
また、コンタクトレンズケースの洗浄が不十分で不適切に使用していると、コンタクトレンズやコンタクトレンズケース内が、細菌やアカントアメーバに汚染されてしまいます。アカントアメーバは緑膿菌などの細菌を食べて生きていますので、コンタクトレンズケース内では最強の捕食者として君臨し、繁殖します。

特徴的な初期症状を見逃さない
病変のわりに激しい眼痛
病変のわりに強い炎症
黒目のまわりの充血と浮腫が強い
角膜が混濁して、徐々に広がってくる
目やにはあまり出ない

アカントアメーバ角膜炎は、初期には、角膜に樹枝状の病巣を呈しますが、角膜ヘルペスのようにひどくはなく、偽樹枝状角膜炎といわれます。そのわりに、角膜のまわりの角膜輪部に充血や浮腫が強いのが特徴です。
初期は角膜の神経に沿って放射状に角膜が混濁してきますので(放射状角膜神経炎)、この段階のうちに見つけて治療を開始することが大切です。

アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバ角膜炎

角膜上皮下混濁、角膜輪部の充血と浮腫が強い

アカントアメーバ角膜炎(同症例のフローレス染色写真)

アカントアメーバ角膜炎
(同症例のフローレス染色写真)

偽樹枝状角膜炎

その後、進行とともに、角膜が点状、線状、斑状に濁ってきます(角膜上皮下混濁)。さらに進むと輪状角膜潰瘍になり、円板状角膜炎となります。この病巣の中に、アカントアメーバが増殖しています。

進行すると治療はとても困難
アカントアメーバは、“抗真菌薬や消毒薬の点眼”、“外科的に角膜を擦過して除去する”、などの治療を行いますが、なかなか治療が困難です。
進行すると失明してしまいますので、早期診断と早期治療が大切です。
角膜混濁をきたす疾患はたくさんあり、眼科医でもアカントアメーバの診断には苦慮することがあります。しかし、上記のような患者さん自身で気づく特徴的な症状もありますので、特にコンタクトレンズ装用者は、異常を感じたら、すぐに眼科医に相談しましょう。

進行したアカントアメーバ角膜炎
進行したアカントアメーバ角膜炎

著明な結膜の充血と浮腫
角膜全体におよぶ輪状角膜混濁

真菌性角膜潰瘍

カビ(真菌)が角膜に感染して角膜の実質内部まで傷害した状態を真菌性角膜潰瘍といいます。

免疫力が下がった人に起きやすい
植物が目に入った場合は健康な人に起こることも

“糖尿病にかかっている人”、“ステロイド治療や免疫抑制薬の治療を長期間行っている人”、“何らかの病気で白血球の数が少ない人”など、免疫力が低下している人に起きやすい病気です。
しかし、木の枝などの植物が目にぶつかったときに、目の中に真菌が入ってしまうことがあり、植物で傷ついた目には健康な人でもカビが繁殖してしまうことがあります。

目のかすみ、目の痛み、ゴロゴロ感(異物感)、目の充血、なみだ目、目やになどを生じます。角膜に灰白色の膿瘍や潰瘍を形成します。進行すると、目の中に膿を生じてくることがあります(前房蓄膿)。

角膜真菌症(初診時)

角膜真菌症(初診時)

角膜実質内の樹枝状混濁と角膜潰瘍

角膜真菌症(再診時)

角膜真菌症(再診時)

前房蓄膿も出現

カビはなかなか治らない
真菌性角膜潰瘍は抗真菌薬の点眼や内服、点滴で治療をします。しかし、真菌の治療はなかなか困難で、 入院して治療しても、後遺障害として角膜混濁が残ることも多いです。早期に診断をして、適切な治療を開始することが大切です。

ドライアイ、びまん性表層角膜炎

ドライアイは、涙が目の表面(角膜)に均等に行きわたらなくなる病気です。目を守るのに欠かせない涙の量が不足したり、涙の質のバランスが崩れたりすることによって起きます。
ときに、目の表面に傷を生じることもあります(びまん性表層角膜炎、角膜びらん)。いわばドライアイは涙の病気といえます。
ドライアイがひどくなり、糸状の角膜上皮が角膜表面に生じたものを糸状角膜炎といい、目の違和感が強くなります。ドライアイの患者さんは、
高齢化(涙の量と質の低下)
エアコンの使用(室内乾燥)
パソコンやスマートフォンの多用(まばたきの減少)
コンタクトレンズ装用者の増加
に伴い増えており、その数は 2,200 万人ともいわれています。

びまん性表層角膜炎
びまん性表層角膜炎

涙は目を守るための大切なもの

「涙」は涙液層を形成して、目の表面を覆い、目を守るバリアのようなはたらきをしています。涙液層は、“油層”と“液層”の2つの層からできています。
外側にある油層はまぶたの裏のマイボーム腺という脂腺から分泌される油の層で、涙の蒸発を防いでいます。
その内側に涙腺から分泌される涙液で形成された液層があります。目の表面の細胞(角膜上皮細胞)にはムチンと呼ばれる物質が一面に存在し、液層の中にも分泌されています。
ムチンは、涙を安定化させて目の表面にくっつけて、涙が目の表面からはじかれてなくならないように保持しています。

正常な目の表面とドライアイの目の表面

ドライアイは3つのタイプに分かれる

涙液層の障害の原因により、ドライアイは次の3つに分類されます。

涙液減少型ドライアイ
涙腺からの涙の分泌量(液層)が減少して生じるドライアイ

蒸発亢進型ドライアイ
マイボーム腺からの油分(油層)が不足して、涙が過剰に蒸発して生じるドライアイ
ドライアイの中で、この蒸発亢進型ドライアイが最も多いです。

BUT短縮型ドライアイ
涙を目の表面に保持しているムチンが減少(涙の保持能力が減少)して生じるドライアイ。
BUTとはBreakup Timeの略で涙の膜が壊されるまでの時間のことで、この時間が短いと涙が目の表面に保っていられずBUT短縮型のドライアイになります。

ドライアイの症状は多彩

ドライアイは、“目が乾く”など典型的なドライアイ症状だけでなく、下記のような様々な症状が現れることがあります。

  • 目が乾く
  • 目がかゆい
  • 目がしょぼしょぼする
  • 目が疲れる
  • 目がごろごろする
  • 目が重たく感じる
  • 目が痛い
  • 光がまぶしく感じる
  • 目を開けているのがつらい
  • ものがかすんで見える
  • 目が充血している

重症のドライアイは、シェーグレン症候群によって引き起こされている場合もあります。
これは、中年女性に多くみられる全身性の難病である膠原病の1つです。ドライアイの症状があるときには、軽く考えずに眼科医に相談しましょう。

ドライアイの治療
3つのタイプを意識した治療を

このようにドライアイは、さまざまな要因により涙が不安定になる涙の病気です。症状は様々であり、原因も数種類のタイプに分かれますので、患者さん本人では区別がつけられません。
主な治療は点眼薬によるものですが、各タイプにより治療薬も異なってきますので、適切な点眼薬を選びましょう。
症状がひどい場合は、涙点プラグ手術による涙点閉鎖の治療を行います。また、目の酷使を避ける生活スタイルも大切です。眼科医と相談して適切な治療を行って下さい。

ドライアイの層別治療

当院では、重症のドライアイに対する涙点プラグや手術治療(涙点閉鎖術)も行っています。
ドライアイでお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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