Age-related macular degeneration 加齢黄斑変性

加齢黄斑変性

加齢黄斑変性
網膜の中心にある大切な黄斑が傷害される病気

私たちはものを見るときに、目の中に入ってきた光を網膜という組織で刺激として受け取り、それを脳に送るために視神経に伝達します。その網膜の中心部分が黄斑です。黄斑は視細胞が密に存在し、ものを見分けたり文字を読んだりするのにとても大切な場所です。
加齢黄斑変性(AMD:age-related macular degeneration)とは、このとても重要なはたらきをする黄斑という組織が、加齢とともにダメージを受けて変化(変性)し、視力が低下してしまう病気です。

AMDは老化の他に遺伝や環境要因も影響

AMDは、すべての高齢者に発症するわけではなく、発症しやすい人と発症しにくい人がいます。その違いの要因として、遺伝要因と環境要因があります。
環境要因としては、喫煙、紫外線暴露、肥満、高血圧などがあります。日本人のAMDは、予備軍も含めると700万人以上いるといわれています。

AMDの症状
ゆがみや暗点の左右差に注意

黄斑部の網膜が変性すると、

  • 視野の中心部がゆがんで見える(歪視、変視症)
  • 視野の中心が暗くなる・欠ける(中心暗点)
  • 視力が低下する(視力低下)
  • 色の感じ方がおかしい(色覚異常)

などの症状が出ます。
左右同程度に発症することは多くありませんので、普段から片目ずつ、障子や格子などを見て、見え方の左右差に注意しましょう。

直線がゆがんで見える、中心が暗く見える

AMDには萎縮型と滲出型があり、滲出型が予後不良

AMDは、脈絡膜や網膜から異常血管(新生血管)が発生している滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)と新生血管の発生しない萎縮型加齢黄斑変性(萎縮型AMD)に分けられます。
滲出型AMDは、典型的なAMDである典型加齢黄変変性(tAMD: typical AMD)に加えて、2つの特殊型として、ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV: polypoidal choroidal vasculopathy)網膜血管腫状増殖(RAP: Retinal angiomatous proliferation)があります。
私たちは、加齢とともに、視細胞を支えている網膜色素上皮細胞という細胞が傷害されて、網膜の下にゴミ(細胞の老廃物)がたまってきます。それをドルーゼンといい、加齢黄斑変性の始まりの症状(前駆症状)です。
萎縮型AMDは、ドルーゼンなどの網膜の老廃物がたまって、網膜が委縮したものです。治療法はありませんが、萎縮が中心窩に及ばなければ、視力低下はありません。また、進行が遅い病態で、失明など重度の視力障害に至るようなことはまずありません。しかし、約10%の人は滲出型AMDに移行しますので、定期的な経過観察が大切です。
一方、滲出型AMDは、黄斑部分の脈絡膜や網膜に健康な状態では存在しない新生血管(黄斑部新生血管、MNV: macular neovascularization)が発生してきたもので、視機能障害が進行し、予後が悪い病気です。
新生血管には、ドルーゼンに由来して発生してくるもの(AMDやRAP)と、脈絡膜が肥厚してくること(パキコロイド)により発生してくるもの(PCV)があります。このようにドルーゼンは滲出型AMDの前駆病変ですので、注意が必要です。
滲出型 AMD は、どのタイプも治療が遅れると新生血管から大出血を起こし、中途失明してしまうリスクがとても高い予後不良の病気です(日本の中途失明の第4位)。

萎縮型加齢黄変変性
滲出型加齢黄斑変性

 ・典型加齢黄斑変性(tAMD)
 ・ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV)
 ・網膜血管腫状増殖(RAP)

加齢黄斑変性の前駆病変
加齢黄斑変性の前駆病変

ドルーゼンが多発
この先、萎縮型になるか滲出型になるか、要注意

滲出型AMDの原因物質はVEGF
弱くてもろい新生血管を発生させる

滲出型AMDは、典型的には網膜の下の脈絡膜という膜から発生する新生血管が原因で起こります。網膜から新生血管が発生する特殊型(RAP)の場合もあります。新生血管を発生させる原因物質としてVEGF(ブイイージーエフ:vascular endothelial growth factor 血管内皮増殖因子)が見つかっています。
VEGFは正常な血管を形成して維持するために不可欠な物質ですが、AMDでは本来必要のない新生血管を発生させてしまいます。
網膜の最下層には視細胞を支えている網膜色素上皮細胞という細胞があります。脈絡膜から発生した新生血管がこの網膜色素上皮を超えていないものをタイプ1 MNVといい、網膜色素上皮を貫いて網膜まで進展してしてきたものをタイプ2 MNVといいます。当然、タイプ2の方が、進行しており予後が悪いです。
また、RAPのように網膜内から発生した新生血管は、タイプ3 MNVと呼びます。
新生血管は弱くてもろい血管ですので、容易に出血したり、血液成分が滲みだしてきたりして、眼底出血、網膜浮腫、滲出性網膜剥離や網膜色素上皮剥離などを起こして、大きく視力を低下させてしまいます。 

滲出型加齢黄斑変性(tAMD)

滲出型加齢黄斑変性(tAMD)

網膜下出血、網膜滲出斑、黄斑浮腫
網膜色素上皮剥離

蛍光眼底造影検査

蛍光眼底造影検査

早期より蛍光色素の漏出があり
タイプ2 MNV

OCT検査

網膜浮腫、
網膜色素上皮剥離
脈絡膜新生血管が網膜色素上皮を貫いて
網膜内まで進展(タイプ2MNV)

OCT検査
正常な状態、加齢黄斑変性
網膜でのイメージ、見え方のイメージ

滲出型AMDには特殊型が2つある

滲出型AMDには、典型加齢黄斑変性(tAMD)に加えて、特殊型として、ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)網膜血管腫状増殖(RAP)があります。

ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV)
アジア人に多く、比較的若年者、男性に多い

PCVは脈絡膜に異常な血管網があり、その先端にブドウの房のようなポリープ状の血管瘤が多数できます。脈絡膜は肥厚(パキコロイド)しており、パキコロイドによって脈絡膜に新生血管が発生すると考えられています。
これらの異常血管が破裂すると、網膜下や網膜内に大出血を起こし、大きく視力が低下してしまいます。
PCVはアジア人に多く、日本人にも多い病気です。我が国の滲出型AMDの半数以上がPCVであることがわかってきています。
比較的若年に発症し、特に男性に多い傾向があります。
治療の基本は抗VEGF療法ですが、肥厚した脈絡膜(パキコロイド)に病変があるため、光線力学療法(PDT)の併用も有効です。ただ、抗VEGF療法の単独療法と効果に大きな差はありません。

ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV)
ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV)

赤橙色の隆起状病変(ポリープ)
広範な網膜下出血と網膜出血

ポリープ状脈絡膜血管腫(PCV)の症例と抗 VEGF 治療の経過

ポリープ状脈絡膜血管腫(治療前)

ポリープが破裂し、広範な網膜下出血と
網膜出血を起こした

ポリープ状脈絡膜血管腫(治療前)
ポリープ状脈絡膜血管腫
(抗VEGF治療3回後)

黄斑の滲出性病変は改善

ポリープ状脈絡膜血管腫(抗VEGF治療3回後)

網膜血管腫状増殖(RAP)
高齢女性に多い、両眼性で反対目も要注意

RAPは、新生血管が網膜内から発生し(タイプ3MNV)、黄斑部に滲出性の病変を引き起こす病気です。その後、脈絡膜にも新生血管が生じて、両者はつながって(吻合して)悪化していきます。
PCVとは対照的に高齢女性に好発します。RAPは滲出型AMDの5%程度と多くはありません。
しかし、両眼性であることが多く、無症状の反対目にも病気の始まりである前駆病巣(ドルーゼン)が生じていることが多いので、注意が必要です。
また、RAPは早期から網膜に病変が生じるため、視力予後はよくありません。
抗VEGF療法が奏功しますが、進行性で再発することが多い病気です。そのため、滲出性AMDの中でもRAPは、抗VEGF治療を中断することが困難で、投与間隔の延長もある程度までに限定されます。
しかし、滲出性変化が軽微のうちに早急に治療を開始して、可能な限り継続治療を行うことにより、良好な視機能を維持することが可能です。

網膜血管腫状増殖(RAP)右眼
網膜血管腫状増殖(RAP)左眼
網膜血管腫状増殖(RAP)

右眼: 大きな網膜色素上皮剥離、ドルーゼン多発
左眼 :ドルーゼン多発、滲出型への移行注意

網膜血管腫状増殖(RAP)の再発症例と抗VEGF治療の経過

網膜血管腫状増殖(再発時)右眼

2か月ごとに抗VEGF薬を注射するも再発
ドルーゼンを含む大きな網膜色素上皮剥離
(ドルーゼン様網膜色素上皮剥離)

網膜血管腫状増殖(再発時)右眼
網膜血管腫状増殖
(抗VEGF注射を毎月に強化し4回後)

ドルーゼン様網膜色素上皮剥離は消退

網膜血管腫状増殖(抗VEGF注射を毎月に強化し4回後)

加齢黄斑変性の治療

レーザー網膜光凝固
中心から離れた病巣の治療に行うことがある

新生血管が、黄斑の中心部分(中心窩)から離れたところにある場合、レーザー光線を新生血管に照射して、新生血管を焼く(凝固する)ことが可能です(レーザー網膜光凝固)。しかし、照射したところの網膜も一緒に焼けてしまい、その部分ではものが見えなくなるので、あまり積極的には行わなくなっています。 また、新生血管の多くは、黄斑の中心部分(中心窩)の下にあるので、レーザー照射で焼くことはできません。レーザー照射により大事な中心窩の網膜も焼かれて視力を失ってしまうからです。

光線力学療法
抗VEGF療法と併用して行うことがある

中心窩網膜を守るため、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達したときに弱いレーザーを照射して新生血管を破壊する光線力学的療法(PDT:photodynamic therapy)もありますが、効果は限定的です。PDTはパキコロイドが原因のPCVに対して、抗VEGF療法と併用して行うことがあります。

抗VEGF療法
侵襲が少なく、効果の大きい優れた治療法

現在AMDでは、その原因物質を抑える薬物治療が主流となっています。AMDの原因は主にVEGF(血管内皮増殖因子)なので、それを抑える抗体製剤(抗VEGF抗体)を目の中(硝子体内)に直接注射します。
黄斑の中心(中心窩)から周辺のどの病巣にも行き届き、安全性が高く、効果が大きいと期待できる治療法です。大きな副作用もなく、侵襲が少ない優れた治療法で、現在のAMD治療の主流になっています。
しかし、この抗VEGF療法は、とても有効な治療法ではありますが、AMDを完治させることは困難で、病気の勢いを抑える治療になります。病気の進行を抑えて、視力を回復・維持するために、定期的な検査と治療が必要になります。

滲出型加齢黄斑変性(tAMD)の症例と抗VEGF治療経過

滲出型加齢黄斑変性(治療前)

ドルーゼンに伴う網膜色素上皮剥離
(ドルーゼン様網膜色素上皮剥離)
内部には脈絡膜新生血管の存在が疑われる
滲出性網膜剥離も生じている。

滲出型加齢黄斑変性(治療前)
滲出型加齢黄斑変性
(抗VEGF治療3回後)

滲出性網膜剥離は消退し、黄斑部の凹みが生じた
視力も回復

滲出型加齢黄斑変性(抗VEGF治療3回後)
滲出型加齢黄斑変性
(抗VEGF治療開始3年後)

ドルーゼン様網膜色素上皮剥離が軽快
脈絡膜新生血管は沈静化し、視力も良好に維持

滲出型加齢黄斑変性(抗VEGF治療開始3年後)

このように、抗VEGF治療を継続することにより、失明を予防し、視力を維持することが可能となっています。
また、AMDでは、新生血管の大きさや場所によって、早期に発見できれば治療後の見えない部分をできるだけ少なく抑えることができ、視界にほとんど影響がなくてすみます。
日頃から、片目ずつものがゆがんで見えないかチェックして、早期の発見に努めましょう。

当院では、加齢黄斑変性のレーザー治療および抗VEGF薬治療も行っております。
気になる症状のある方は、お気軽にご相談ください。

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